22nd International Atomic Energy Agency Fusion Energy Conference報告

中井 貞雄 名誉教授(元大阪大学レーザー核融合研究センター長)

1.核融合研究の50周年

 「Atoms for Peace」と題して第1回核融合会議が1958年、今回と同じジュネーブにて開催されて以来50周年となる。この間核融合研究はさまざまな展開を見せながらも、実用的な核融合エネルギーを見通せる段階になってきた。地球環境とエネルギーという、人類の命運のかかった大テーマに挑戦して半世紀、幾多の試練を乗り越えつつ、物理実証POP(Proof of Principal)の段階から、いかに動力炉へ向けての工学的課題を解決するかという方向に、研究開発の重点が移りつつあることが今回の会議において強く感じられた。会議の概略を以下に示す。

22nd IAEA Fusion Energy Conference
13-18 October, 2008
Geneva, Switzerland
参加者数 870名(過去最多)
発表論文数 548件(過去最多)  

 核融合の二つの方式、磁場閉じ込め核融合(MFE)と慣性閉じ込め核融合(IFE)(レーザー核融合)がそれぞれの特徴を生かしつつ物理実証の最終コーナーにさしかかろうとしている。

2.核融合エネルギーの実現、最終段階へ

 磁場核融合(MFE)では、いろいろなタイプの核融合実験装置が半世紀を経てトカマク型に集約されてきた。日欧の誘致合戦の末に国際協力のもとに進められるITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)の建設場所がフランス南部カダラッシュに決まり、そのヘッドに我が国の池田 要氏が就任された。ITERの建設が本年より開始され、2008年~2018年の10年をかけて完成される予定であり、核融合点火・燃焼を伴うファーストプラズマ生成が2018年に予定されている。会議冒頭の池田 要氏の講演では、ITER計画が順調に立ち上がりつつあることを報告された。会議全体として過去最高の盛り上がりをみせたのは、ITER計画にかかるプラズマ物理研究と、装置建設にかかわる炉工学研究に関する報告が大幅に増加したことによるものである。今後10年、点火・燃焼による核融合エネルギー生成へ向けての壮大な挑戦が続けられることになろう。
 慣性核融合(IFE)では、トリチウム燃料ペレットの爆縮による核融合点火・燃焼・エネルギー利得の実証が目前に迫ってきた。レーザー技術の粋をかたむけ、3,300億円の経費と10年近い年月をかけて建設を進めてきた米国、ローレンスリバモア研究所(LLNL)のNIF(国立点火施設National Ignition Facility)が、いよいよ2010年からエネルギー利得の実証に向けて核融合点火実験を開始することになった。1960年のルビーレーザーの出現、1972年爆縮核融合研究の開始以来、阪大レーザー研における高温爆縮による2×1013中性子/ショットの達成、高密度爆縮による固体密度1g/ccの1,000倍に達する超高密度の実現等をはじめとする、爆縮物理に関する世界各国の研究成果の上に計画されたプロジェクトであり、192ビーム、総出力1.8メガジュールのレーザー装置の完成をみれば、核融合点火・燃焼・エネルギー利得実証という物理実証の最終段階の成功は確かなものと広く信じられている。そのレーザー装置についてはLLNLのレーザー核融合プロジェクトのリーダー E.Mosesの初日のオーバービュー講演によると、全システムの98.5%がすでに完成し、2009年にはシステムのチューニングアップを行い、2010年より4段階の点火実験(Ignition Campaign)を実施するとのことである。米国NIF計画以外にも、同程度の規模のレーザー建設を進めているフランスのLMJ計画もNIFの後を追って進められている。さらに、より高利得でコンパクトな核融合を可能とする高速点火方式についても、阪大ILEのFIREX計画、さらに野心的な、EUが域内諸国共同して推進しつつあるHiper計画、ロチェスター大学におけるオメガEP計画等々、物理実証の最終段階を見越してレーザー核融合の活発な展開が見られた。

3.核融合がいよいよ国のエネルギー戦略へ

 トカマク方式によるITER計画がスタートし、過去最多の参加者、論文発表で開催された今回の核融合会議の初日、全員が頭をそろえているであろうオーバービューセッションにおける米国NIF計画のリーダー E.Mosesの講演は、そのチャレンジングな内容により、MFE、IFEの専門に関わりなく、参加者全員に大きなインパクトを与えるものであった。核融合エネルギーが、50年にわたる研究の結果、いよいよ実用エネルギー源として人類、国家のエネルギー戦略に組み込まれうる段階に達したということであろう。2010年に物理実証の最終段階である核融合点火・燃焼・エネルギー利得実証を達成し、そこからの豊富な中性子を核分裂物質に導くことにより、さらにエネルギー増倍させるものである。これにより既存の原子力発電所より出る放射性廃棄物、天然ウランのみならず減損ウランまでも燃料とし、ワンスルーで埋設処理可能なレベルまで燃やしきるというものである。このコンセプトをLIFE(Laser Inertial Fusion Energy)と名付けて、NIFによる点火実証実験の後に続くものとして発表したのである。核融合―核分裂ハイブリッド炉の考えは、1951年頃よりザハロス(Sakharos)、ベーテ(Bethe)等により研究されてきている。  今このコンセプトが注目を集めるのは、第一に、レーザー爆縮核融合により、点火・燃焼・エネルギー利得の実現が2~3年のうちに実現されることが確実になってきた。第二に、レーザー爆縮核融合では、中性子が極めて小さなポイントソースとして空間の一点から放射される。第三に、連続的に核融合を起こす高効率でかつ繰り返し動作が可能な大出力レーザー開発の技術的見通しが立ってきたこと、等によるものである。E.Mosesの講演内容をできるだけそのままお伝えするため、主なビューグラフに内容の説明をつけ、図1から図9に掲載する。

4.レーザー中性子源の産業応用について

  IFEフォーラムは、レーザー中性子源の産業技術としての有用性を認識し、「レーザー中性子源による新産業創成調査研究委員会」を立ち上げ、産学官連携して鋭意調査研究活動を実施している。委員会設置趣意書には概略次のように書かれている。
(1)超高エネルギー密度物理学の進歩
超高密度フォトンを基盤技術として、超高温・高密度プラズマ生成、レーザー放射源、レーザー粒子加速、レーザー核融合等々、未知未踏の物理領域における現象の解明が進んでいる。
(2)ハイパワーレーザーの進歩
パワー半導体レーザーを励起源とした固体レーザー(DPSSL)の進歩により高効率、高繰り返し動作の大出力レーザーが実現しうる状況になってきた。
(3)中性子工学、産業利用の進展
最近中性子を物理的、工学的に活用とようとする新しい応用分野が急速に拓けつつある。中性子による水素システムの解明(燃料電池、水素貯蔵等)、中性子捕捉ガン治療、中性子による核変換の産業利用(リンドープシリコン生産)等々。
 以上のような状況をふまえ、本調査研究委員会は高効率、高繰り返しでかつ産業システムとしての経済性、強靭性を備えた高強度レーザーにより、低コストでかつコンパクトな強力中性子源を実現し、かつ医学、工学分野における産業応用技術について調査、分析、評価を行い、今後の新産業創成に資することを目的とする。  今回、核融合エネルギー会議におけるE.Mosesの発表は、以記レーザー中性子の産業応用の最も大きなスケール、エネルギー開発への応用とも観ることが出来る。
 核融合エネルギー会議における物理的、技術的な進展、動向の詳細については、同会議に出席し、世界の第一線研究者と議論を戦わせてこられた阪大レーザー研長友准教授に報告していただく。

(図1)NIFによる点火と慣性核融合エネルギーへの道
出力1.8メガジュール、ブルー光、192ビームのレーザーがほぼ完成(98.5%)。発振器から大出力増幅器を通り、ターゲットまでの全ビームチャンネルの動作が2008年9月24日に確認されたとのこと。

(図2)核融合エネルギーへ向けての2つの方法
磁場核融合(MFE)ではITER装置で2018年にエネルギー利得Q=10のプラズマが生成される。これに対し、レーザー核融合(IFE)では2010年にエネルギー利得G~10-20の爆縮核融合が達成される。その後、安全で信頼性の高い低コストのエネルギー源実現への挑戦が始まる。

(図3)NIFによる核融合点火キャンペーン
2010年にはNIFのチューニングを行い、2010年から12年にかけてDTターゲットによる核融合点火実験を実施する。

(図4)ターゲットゲイン25で100万kWの発電所が可能に
核融合からの中性子を未臨界の核分裂ブランケットに導入することにより、核融合と核分裂を合わせた総合エネルギー倍率Gt~100-500が実現される。効率10%、出力10MWのダイオード励起レーザー(DPSSL)により、レーザー駆動等に用いる循環エネルギー割合が10%以下の効率的な核融合炉が構築できる。

(図5)LIFE(Laser Inertial Fusion Energy)用ターゲットチャンバー
レーザー爆縮核融合ターゲットを取り囲んで、球形の未臨界核分裂ブランケットが配置される。核分裂燃料TRISOが冷却剤FLiBeに混入されブランケット内を流れ、加熱される。

(図6)LIFEにおけるエネルギーと物質の流れ
天然ウラン、減損ウラン、使用済みウラン、兵器用プルトニウムを装荷したブランケットを核融合中性子(2×1014n/cm2/S)で照射することにより核分裂によるエネルギー利得を得るとともに、99%以上のウラン、プルトニウムを燃焼させることが出来る。

(図7)LIFEにより放射性廃棄物の埋設処理量が大幅に減少する
米国における地下埋設処理場として有名なユッカマウンテン16ヶ所分の放射性廃棄物がLIFEを用いることにより、1ヶ所分にも満たない量まで減少させることが可能である。これにより2100年まで米国の放射性廃棄物処理の問題が解決されることになる。

(図8)LIFEに必要な高繰り返し大出力レーザー
現在のNIFと同様な構成で、高出力レーザーダイオードとHeガス冷却を用いることにより、LIFEに必要な大出力で繰り返し動作可能なレーザーシステムが建設可能である。そのための開発研究がローレンスリバモア研究所ではマーキュリー計画として進められている。

(図9)LIFEにより早期にクリーンな実用エネルギー源が可能となる
NIFにより2010年に核融合エネルギー利得が実証されれば、未臨界核分裂ブランケットと組み合わせたLIFEコンセプトにより2020年には、核融合利得Gと核分裂Qの積G×Qによる大きな総合エネルギー利得を実現し、実用パワープラントが可能となる。さらに2020年以降には、核融合のみによるパワープラ ントによる電力網接続が可能となろう。

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