核融合エネルギー
新しいエネルギー開発の必要性
世界の人口は、産業革命以降、生活の利便性や医学の進歩に伴い急激に増加し、現在は60億人を超えています。さらに、生活水準の向上や、より便利な社会が実現され、1人当たりのエネルギー消費量も急速に増大しています。現在、我々人類は、この地球が何億年もかけて蓄えてきた石油・石炭・天然ガスなどの貴重な資源を「One match in the long night」、すなわち1本のマッチが長い夜を一瞬だけ輝らす様な急激な勢いで消費しており、これから新しい埋蔵資源が発見されたとしても、近い将来にこの貯蓄が無くなることは間違いない事実です。また、我々は化石燃料の大量消費に伴う地球温暖化問題にも直面しています。
これらの問題を同時に解決するために、燃料が無尽蔵にあり、CO2の発生がない核融合エネルギーの実現が期待されています。
核融合とは

核融合とは、重水素と三重水素の原子核をクーロン力を超えて融合させることでヘリウムと中性子を作り出すものです。このとき、ごくわずかな質量が失われます。この失われた質量はすべてエネルギーとして放出されます。放出されるエネルギーは失われたエネルギーと光速の2乗の積に比例することから、莫大なエネルギーとなります。
核融合反応によって発生するエネルギーと反応を維持するために必要なエネルギーが釣り合うための条件をローソン条件といい、レーザー方式の核融合の場合、
1. プラズマ温度が100万度以上
2. プラズマ密度と閉じ込め時間の積が10の14乗/cc秒以上
になります。
2つの方式

太陽は生命の源であるエネルギーを水素の核融合反応により発生し、地上に送り続けています。この太陽活動を地上に実現しようというのが核融合です。
核融合エネルギーには慣性閉じ込め核融合エネルギー(IFE*) と磁場閉じ込め核融合エネルギー(MFE*) があります。慣性核融合は核融合燃料を瞬間的に高温高密度に圧縮し、燃料自身の重さ(慣性力)で燃焼を維持させる方式で、レーザー核融合がその代表です。これに対し、磁場核融合は低密度の燃料を磁場容器に長時間閉じ込めて核融合反応を起こさせる方式で、トカマク型がその代表です。両者は互いに異なる技術を基盤としており、我が国を始めとして世界各国で研究が進められています。
レーザー核融合
レーザー核融合発電

レーザー核融合発電では、まず炉(熱エネルギーを取り出すための容器)の中心に直径5mmの球状燃料ペレットを打ち込み、これを数百万ジュール**の高出力レーザーパルスで一様に照射します。レーザー照射を受けた燃料の外側は高温となり数千万気圧もの圧力が発生するので、球状の燃料はその中心に向かって圧縮されます(爆縮)。こうして瞬間的に核融合反応を起こさせます。これを1秒間に数回の割合で繰り返すことにより、連続的にエネルギーが発生するので、これを外部へ導くことにより数百万キロワットの発電を行うことができます。
レーザー核融合発電におけるエネルギー収支は次のようになります。爆縮し、核融合反応が起こった燃料ペレットからは投入されたレーザーエネルギーのQ倍のエネルギーが放出されます。Q=1は投入したレーザーエネルギーと発生した核融合エネルギーが均衡する点に相当するのでブレークイーブンと呼ばれます。発生した熱エネルギーは効率ηgの発電システムで電力に変換され、外部に送電されますが、その一部(ε)は発電所の所内電力やレーザー光を発生させる循環電力として用いられます。この電力からレーザー光を発生させる効率をηdとすると、外部からエネルギーを供給することなく自立運転するには、これら4つの要素の積Q×ηg×ηd×εが1を上回る必要があり、現実的な効率を考慮すると、Q=100を達成することが一つの目標となります。
レーザー核融合発電の特徴

・炉に関する設計の自由度が高く、現存する材料で概ね設計可能である。
・発電に必要な主要機能は独立性が高く、短期間に開発できる可能性が有る。
・同じ規模の磁場核融合発電所で比べた場合、取り扱う放射性物質であるトリチウムの量が少ない。(約1/10)
・プラントの出力、運転モードの自由度が高く、消費電力ピークに柔軟に対応できる。
爆縮と点火方式

高温高密度に圧縮された核融合燃料はプラズマ状態になります。プラズマは電気を帯びた粒子なので、その静電気力にうち勝ち、強制的に核を衝突させて融合反応を起こさせる必要があります。このためには1億度以上の温度、200g/ccの密度(液体水素の1000倍の密度)、10億分の1秒以上の保持時間の3つの条件が満足される必要があります。これらの条件は図に示すような燃料の爆縮で実現します。レーザー照射を受け、球対称に圧縮された燃料の中心でまず燃焼条件が満たされ、自己点火します。核融合の火は周りの燃料に燃え広がり、爆発的にエネルギーが放出されます。この方式を「中心点火」と呼びます。このほか、燃料が最大に圧縮された瞬間、別のレーザーで外部から燃料を追加熱する「高速点火」と呼ばれる新方式の研究も開始されました。
現況展望
研究の現状
大阪大学レーザー核融合研究センターの出力10キロジュールのガラスレーザー「激光XII号」により、燃料温度1億度、燃料密度120g/cc (液体水素の600倍の密度)の圧縮が世界に先駆け実現されました。これを受け、米国やフランスでは出力1.8メガジュール*のレーザー装置を建設して、核融合点火・燃焼を実証しようとする計画(米:国立点火施設(NIF) 、仏:レーザーメガジュール(LMJ) )が進められています。将来のレーザー核融合動力炉には現在開発中の高効率・高繰り返しのダイオード励起固体レーザーが用いられることでしょう。
(*メガジュール:百万ジュール)
日本、アメリカ、EUの核融合炉
LIFT(日本)

LIFE(USA)

HiPER(EU)

応用
レーザー核融合研究は高出力レーザーや高精度燃料ペレットの製作、高空間・時間分解の爆縮計測、そして高度な計算機シミュレーションなどに支えられています。これらの技術や研究からはレーザー核融合はもとより先進のレーザー技術、新光学デバイス、高速度写真技術、X線光学、レーザープラズマ応用など幅広い研究成果が生み出され、常に時代の先導役となっています。
適用の進むレーザー技術

レーザーの発明以来、加工への応用は様々な分野へ広がり、いまやレーザーなしでは携帯電話も作れない時代となりました。微細加工、医療応用はもとより、レーザーにより大気中に電導路を生成すると雷の誘導(誘雷)も可能です。
レーザープラズマX線

高輝度X線応用は新しい分野として急速な広がりを見せています。高出力レーザーを用いることにより発生したレーザープラズマX線やX線レーザーはリソグラフ光源や物質解析などへの応用が期待されています。
宇宙応用

高輝度X線応用は新しい分野として急速な広がりを見せています。高出力レーザーを用いることにより発生したレーザープラズマX線やX線レーザーはリソグラフ光源や物質解析などへの応用が期待されています。
基礎科学

高出力レーザーが生成する高エネルギー密度プラズマ研究はX線放射や流体運動などと密接に関連しており、天文学における様々な問題の解決の糸口をあたえると期待されています。また、こうした研究はレーザー核融合のような複雑流体現象を記述するための統合コード開発にも不可欠です。